第56号 渋谷区パートナーシップ証明の申請開始に思う(追記あり)

 

 ●社会へのインパクトが大きかった渋谷・世田谷の公認

 10月28日、渋谷区での同性パートナーシップ証明書への申請受付が始まり、2CHOPO連載陣の東小雪さんとそのパートナー増原裕子さんが、さっそく申請をしました。その模様は多くのメディアで伝えられ、同性カップルの存在が可視化され、日本社会が性的マイノリティの存在に慣れていく大きな助けになったのではないかと思います。

 また、地方で(都会でもですが)孤立している当事者にも、自分はけして一人ではない、自分にも家庭をいとなむ生活者としての未来があるのだという力強いメッセージとなったのではないでしょうか。

 28日に受け付けられた申請により、11月5日に証明書が交付されるとのこと(役所の5営業日後=1週間後、という運びのようです)。

 おなじ5日には、世田谷区でも宣誓書方式による同性カップルへの公的書類の交付が始まります。区役所で宣誓をし、その宣誓書のコピーと区長の受領証がその場で本人たちに渡され、その受領書が一種のパートナーシップ証明書になるわけです。受領証には住民票などに使われるコピーで文字が浮かび上がる複製防止の用紙が使われ、公的書類としての信頼性に配慮されるとのこと。宣誓書は10年間保管されます。

 どちらも法的効果はなく、「しょせん紙切れ」「神社のお札(信じる人には効果がある)」など冷ややかな見方もありますが、行政による同性カップル公認が社会に与えるインパクトは大きく、さまざまな企業から両区へ問い合わせが来ていそうです。電話会社、保険会社……すでに同性カップルへの対応を表明したところもあります。一番にやるのは及び腰な企業も、立場のある人が口火を切ればあとは早い、日本社会らしい変化かもしれません。

 証明書も宣誓書も、同性愛者であることのカミングアウトにほかなりませんので、申請者はまだ限られたものかもしれませんが、こうした制度(とその報道)がきっかけで社会が変化し、カミングアウトしても大丈夫だという感覚が当事者にも醸成されてくる、それによりまた申請者も増える、そうした相乗効果を期待します。

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 ●公正証書1種でOKの「特例」バージョンとは

 さて、渋谷区の条例では、2種類の公正証書ーー任意後見契約と共同生活の合意契約ーーを作成している同性カップルに対し区が「婚姻に相当する関係」と認め、パートナーシップ証明書を交付することができると定めています。

 同性カップルを婚姻に相当する関係と認めるにあたり、区ではその線引きに悩んだのでしょう。これまで前例がないだけに、「当人たちの言うままに認めていいのか」……、そんな区議会の反応を恐れたのかもしれません。男女なら合意のみで成立する婚姻が、同性ふたりの場合は「証拠を見せなさい」というわけです(ほとんど詐欺師扱い?)。そこで目をつけられたのが公正証書でした。

 じつはこの任意後見契約、私も2009年に書いた『同性パートナー生活読本』という著書のなかで、養子縁組する以外では、同性ふたりのあいだになんらかの法的関係を導く唯一の制度、と紹介したことがあります。また、同性パートナーシップのための公正証書を作成することも紹介しました。2CHOPOでも何度か触れてきました。

 それを区の担当が読んだかどうかは知りませんが、私が当時はほかに方法がないなかで、かろうじてパートナーシップの証明になり得るかも、と書いたことが逆に証明の要件とされてしまったことには、困惑の思いです。

 2種類の公正証書の作成には、区の試算でも約8万円の公証役場手数料がかかり、それを弁護士や行政書士など専門家に依頼すれば、さらに報酬も必要です(実際、なかなか個人で公証人と渡り合うのは敷居が高いと思います)。金銭的にも手続き的にもハードルが高すぎる。申請人が限られては、そもそも条例の趣旨にももとる……。

 条例は3月31日に成立しましたが、10条のパートナーシップ証明は規則が未制定であったので、この部分はまだ試行されていませんでした。規則の骨子検討を委ねられた男女平等・多様性社会推進会議(条例14条に規定。以下、推進会議)では、少しでも申請しやすいよう、要件を緩和する方法はないかが模索されました。その経緯は、中川重徳弁護士へのインタビューとしてお伝えしたとおりです。

 結果として、条例に規定された2種類の公正証書を原則としながら、パートナーシップがまだ長期でなく将来の後見人を考えるところまでいかないような場合には、共同生活の合意契約1本でもよい。ただし、一方の身体能力や判断能力が衰えたときにはできるかぎり援助することや、必要な時期が来れば任意後見契約も行なうことを明記しておくこと。そうした合意契約なら、それ1本でも証明を出しましょう、ということになりました。合意契約書の公証役場手数料は1万5千円程度です。

 こうした規則の運用(要件の緩和)で、申請者の範囲が広がるのではないかと期待されています。区の手引き類はこちらをご覧ください。

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 ●規則にはやはり不合理な点も……

費用がかかるとしてなにかと評判の悪い公正証書や渋谷区方式ですが、現在、同性カップルを守るための法律が現実にないなかで、公正証書などの法的効力の高い契約でパートナーシップの中身を作っていくことは意味のあることです。
とりあえず公正証書を1本は作ってみる、それも証明書取りのために形式的に作るのではなく、これを契機に自分たちのライフプランをしっかり考えてみることに同性カップルが取り組むのは、私はとてもよいことではないかと思っています(しっかり考えた結果、怖くなってカップルが別れても、まあ、それはそこまでのものだった、ということです……)。

 ところが、友人の渋谷区在住のゲイカップル(パートナー歴20年以上、不動産あり)に、区の証明書も始まったことだし、うちでもそろそろパートナーシップの書面を作っておきたいと言われたとき、ハッと気づきました。

 こちらでもご紹介しているように、こうした安定的なカップルが婚姻男女と同様に財産管理や法律行為の代理をしあったり相続ができるようにするためには、任意後見やそれに先立つ財産管理委任契約、そして死亡時の遺言などを公正証書で作成することが有効です。私の感覚では、共同生活の合意契約などは、20年も共同生活をしてきたカップルさんにいまさら作りましょうなどというのは、むしろ失礼な話です。
ところが、それでは区の証明書は証書が揃っていないということで申請できないかもしれない……。

 規則(区の手引き)では、「生活又は財産の形成過程であり、任意後見受任者に委託する事務の代理権の範囲を特定することが困難である」カップルへの特例措置は定めましたが、ベテランのカップルに対しては実態にそぐわず、逆に配慮を欠いたまま。細かいことを見ていくと、この場合はどうなんだ? ということがポロポロ出てくるのです。

 ほかにもよく言われるのは、養子縁組との関係。現実の法制度がないなかで、養子縁組で切り抜けてきた同性カップルさんもいますが、縁組を解消しないと証明書は申請できないことになっています。証明書がなくてもすでに養子縁組で法的関係があるんだから、おたくはいらないでしょ、ともいえますが、ならすでに公正証書で法的関係があるのになんで区は上乗せで証明書出すんだという話にもなり、整合性がとれません。

 また、上記にリンクを貼りましたが、渋谷区では申請にあたっての「手引き」を公にし、文例等も掲載していますが、その文例がどこのお役人さんが起案したのか知りませんが、とても野卑で粗雑で無粋で無味乾燥で、二人のパートナーシップを祝福するのに全然ふさわしくない文章なのです。というと、趣旨に適合していればいいんじゃない、と思うでしょうが、役所がこの種の手引きを作ったときは、えてしてこれから一言一句もそらさせない強制力が働くものでして、他の自治体での違う手続きでしたが、「および」「または」さえ手引きどおり「及び」「又は」に直させられたことも経験しました。今回はどうなのでしょう?

 さらに、証書に通し番号が入るようですが、うちは何番何番みたいな、ヘンに順位を煽るようなものが必要なのでしょうか? パートナーシップを解消して返納した場合は、番号が繰り上がるとでもいうのでしょうか?

とても「THANK YOU SHIBUYA」などと言って喜んでいられる場合ではないようです。

 こうした話が出てくるのは、条例制定のときも、また今回の規則制定のときも、当事者や専門家への十分なニーズ調査やパブリックコメントなど、開かれたかたちでの検討がなかったからでしょう。条例制定時の拙速については、中川委員も私へのインタビューのなかで批判していますが、その後についてみても、検討の一次資料となる今回定められた規則全文やそのもとになった推進会議の中間報告さえ、いまだに区のウェブサイトのどこを探しても載っていないお粗末です。
これでは渋谷区は秘密主義と言われ、「見ばえのいい同性カップルを区の宣伝に利用しているだけ」「LGBTはお金のかからない町おこしなのか」と揶揄されるのも無理はありません。

 とはいえ、批判ばかりでは、せっかく生まれた赤子をたらいの水と一緒に流すことにもなりかねません。

 区には、私たちも一緒に考えるための十分な情報提供と、今後の改善のための意見窓口や場(それこそ啓発の機会)などを用意していただくとともに、私たち自身もあらためてこの制度をよりよく使えるものにするために、(ネットで皮肉を飛ばして自己満足にふけるのではなく)生産的な知恵を出し合うことを、私は渋谷区役所のものでも渋谷区民でもなんでもありませんが、呼びかけたいと思います。

 

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