第58号 いま話題のライフネット生命保険に話を聞いてきた!

 

 ●同性カップルを受け入れた保険会社

2015年10月29日、ライフネット生命保険株式会社は11月4日から同性パートナーを死亡保険金の受取人に指定できるようにすると発表し、メディアの大きな注目を集めました。これまでの異性事実婚パートナーの指定を同性パートナーにも拡大するとのことです。その後、同様の取り組みを発表する生保会社もあいついでいます。

こういうとき、すぐ「ステキ!」なんて言いたくない私。「どうせ渋谷・世田谷ブームに乗ったポッと出の思いつきか、経済誌のLGBT市場ウン兆円に踊らされてるだけじゃないの?」ーー嗚呼、心の汚れた私は、どうしてこんなことしか言えないのでしょう(自虐)。

しかし、岩瀬大輔さん(ライフネット生命社長)のブログには、「ここ数年間、社内の有志を中心に考え、調査をし、準備を進めてきました」とあり、あれ? にわか仕立てでもなさそう……。

これは聞いてみるしかないべ(例の2親等規定の来歴についても知りたかったし)、と恐る恐る取材を申し込んでみたら、「どうぞおいでください」と!

お話をしてくださったのは、企画部長の森亮介さん、マーケティング部の関谷誠さんです。

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いただいた資料には、事実婚パートナーの指定を同性のパートナーにも拡大すると説明されています。

 ●同性パートナーへの拡大になぜ2年余の検討が必要だったのか

(森さんたちのお話)

当社は2008年設立の、まだ新しい保険会社です。売り手(保険会社)の都合による複雑化した保険ではなく、あくまで買い手(加入者)のニーズに即した、シンプルな保険の企画、販売に取り組んできました。

これまでも事実婚パートナーのご指定は一定の条件のもと可能でしたが、同性パートナーはどうなのか、広げるにはどうすれば可能なのかという問題意識は社内有志のあいだに共有され、2年余り、検討を重ねてきました。

 ご本人と受取人の関係をどうやって確認するか?
最初のハードルは、契約をお引き受けするときの問題です。いわゆる保険金詐取、殺人などを背景として、生命保険業界のなかで、受取人は原則として戸籍上の配偶者または2-3親等以内の血族とする方針(いわゆる2親等規定)が形成されてきました。会社によっては事実婚のパートナーのかたなどには一定の条件のもとに例外を認める場合もあるようですが、その場合でも申し込みできる保険金額に上限を設定する会社が多いようです。

この2親等規定を超えて、ご本人と受取人が確かな関係である、詐取などが目的ではない、契約に理由があるということをどうやって確認するか。

熟慮した結果、当社所定の「パートナー関係に関する確認書」という紙を用意させていただくことにしました。ここにご本人と受取人が自署・捺印してご提出いただくことで、お二人の将来にわたる婚姻関係に準じた共同生活の意思などを確認させていただきます。

 支払い時、パートナーが死亡診断書を取れるか?
もう一つのハードルは、ご本人が亡くなったときに保険金の支払い手続きがスムーズに行なえるか、です。具体的には医師の死亡診断書がもらえるか。死亡診断書は死亡の事実と死因を確認するうえで、保険会社にとっても重要な書類です。

異性間の場合、離婚して法的関係が無い(保険契約は続いていた)などで、医師から死亡診断書がスムーズに取得できないことがまれにあります。内縁関係についても、判例上、一定の権利が認められてはいるものの、医師からの死亡診断書を取得する権利については、明確な判例がないようです。同性カップルについても、同様の問題があると考えられます。

そこで、これも確認書のなかで、ご本人が自分の万一時には自分の死亡診断書などをパートナーである受取人に交付することを希望する生前の意思を確認させていただくことにしました。医師もこれで、ご本人の意向の観点については、懸念せずパートナーである受取人に診断書を渡せると思います。それでも難しい場合には、当社が受取人と共同で医師らに説明することも想定しています。

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こうした確認書で加入時と支払い時をサポート。

 社会の受容度はたしかに気になった
そのほか、同性カップルにたいする社会の受容度が気になったのは確かです。私ども世代に、同性カップルのかたや性的マイノリティのかたの存在は社会的にも「あたりまえ」ですが、外部の調査によれば、年配のかたは同性愛への許容を示す値が若いかたに比べてまだ相対的に低いそうです。

ただ、米国最高裁判決や渋谷区・世田谷区の話も出て社会に急速に変化が生じ、はからずもいまが発表のタイミングとなったのは幸いでした。あとは当事者のみなさんがどう受け止めてくれるか、イコールな取り扱いだと思ってくださるか、でしょうか。

 同性カップルへのヒアリングや調査を重ねた
死亡保険は統計と確率のビジネスです。その点、同性カップルのライフスタイルを営むかたがたがほかの契約者と条件的におなじと言えるのか。これも検討課題の一つでした。
ちょっと調べると、メンタルが悪い、抑うつ傾向が高い集団だという話もある。そういう集団を受け入れて大丈夫なのかどうか。公式な統計が存在していないためわかりません。

私たちも、同性愛のグループを対象としている研究者との共同調査、当事者ヒアリング、あと当事者の専門家へのご相談など、できる限りのことをしてきました。小さな会社で少ない担当者でコツコツ進め、検討開始から実施までに約2年。「長らくお待たせしました」という思いでサービス開始を発表させていただきました。

 ●生命保険が最上の解決策か? ライフプランに即して考える

 ライフネット生命のかたのお話、いかがだったでしょうか?
同性パートナーを生命保険の受取人にできないーーこれはながらく同性カップル排除の「象徴」と受け止められてきました。そのことに、他社に先駆けて風穴を開けたライフネット生命のチャレンジにーーここにはご紹介できなかった開発中の裏話や努力も含めてーー心から敬意と感謝を表したいと思います。

とくに、追随した大手が「渋谷区の証明書」を要件としている一方、独自の確認書によって全国のどこに住んでいても誰でもが申し込めるようにした点は評価に値するでしょう。「渋谷区の証明書」要件は公正証書の存在を重視したのかもしれませんが、これでは現状1組しか対象になりませんし、そもそも2親等規定は自分たちで勝手に決めておきながら、解除するのは行政のお墨付き頼みかよ、と、私は正直ムッとしました(苦笑)。

と同時に、保険という商品の特性上、そこは単純に喜んでばかりいられない点もあります。最後に何点かにまとめてみましょう。

 ニーズの有無やライフプランを考える
保険は不動産につぐ人生2番目の買い物ともいわれます。それだけにふたりに本当に入るべきニーズがあるのか、保険で備えるのが合理的なのか、その保険料は違う使い方したほうがよくはないか、いろいろ検討してみる必要があります。ライフネットのかたも、いわゆるLGBT市場狙いというわけでもなく、その点は冷静に見ていたのも印象的でした。

「いまは水門がやっと開いた感じで申し込みが続いているようですが、いずれ落ち着くと見ています。また、当事者ヒアリングのなかで、保険金を遺そうとまで思えるパートナーのかたと出会い、共同生活を継続されている同性カップルのかたはまだ多くないのではないかと感じました。まあ、これは同性カップルに限った話ではないかもしれませんが」

保険に入れば万事安心ではなく、死亡前は病院での看護や医療意思の代理、死亡後も遺言や死後事務といった法的書面について、自分たちでも理解し、同性パートナーシップの法的保証について準備する必要はあるでしょう(2CHOPOの拙稿拙著などもご参考ください)。

ただ、わたし的には、こうして同性・異性を問わず多様なカップルに保険を開いていくライフネットの姿勢は、同性カップルのみならず、きっと社会全体の共感と評価を集めるものと思います。

 税金の面の考慮も必要
一方で、税金面での割の悪さは要注意です。ご本人が亡くなり支払われた保険金は、「見なし相続財産」として相続税の課税対象となります。親族が受取人の場合、保険金から法定相続人数×500万円が非課税とされ、他の貯金などと合わせても全体が基礎控除の範囲内に収まって相続税がかからない場合が多いものですが、非親族が受け取る場合はこの非課税枠がなくマルマル課税対象となります。しかも保険金を受け取った結果、相続税を非親族であるパートナーが払う場合、法定相続人が払うのに比べて相続税が2割加算されます(それだけ現行法は親族優遇ということ)。

ちなみにこの時期、年末調整のために保険会社から保険料証明書が届きますが、非親族が受取人の保険料は年末調整の生命保険料控除も受けられません。

税法は一企業の努力ではなんともなりませんが、加入には税金面からの検討も必要です(将来、同性婚が合法化されれば違う可能性もありますが……)。

 加入時のリスク告知義務は誰でも平等
ホルモン投与をしているトランスジェンダーや、HIV陽性のゲイの加入の可否についてもよく話題になります。これは加入者の条件の平等の面から、特別のリスクをもったかたはお引き受けできない可能性が高いと言わざるを得ないとのこと。LGBTどうこうではなく、どのセクシュアリティでもおなじ。メンタル系の服薬についても告知の義務はあるでしょう。

保険は加入者相互の助けあいという原理のもと、今回の導入がLGBTに特別の下駄を履かせるものでないことは、われわれも理解する必要があるかもしれません。

*  *
たまたま渋谷・世田谷の制度スタートと同時期になり、「便乗?」と早合点にも思ってしまいましたが、背後に深い問題意識と長い長い取り組みがあったことを知れたインタビューでした。
ご多忙のなかお時間を割いてくださったお二人に、心から感謝申し上げます。

 

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