第59号 取材者を取材する② しんぶん赤旗・舘野裕子記者、吉岡瑞代記者

 

最近増えた性的マイノリティ/LGBT記事について、それを発信している記者のかたがたに逆取材する短期シリーズ「取材者を取材する」。
第2回は「しんぶん赤旗」の舘野裕子記者と吉岡瑞代記者です。
赤旗は日本共産党の党機関紙で、同党の政策や主張、方針が掲載されますが、政治・経済、社会、国際、文化、芸能スポーツ、暮らし、テレビラジオ欄など、一般紙の側面ももつのが特徴です。日刊20万部、日曜版100万部を発行。読者は党員や党支持者のほか、一般読者も多数。地方議員や公務員など仕事がら目を通すかたも少なくないそう。

そんな赤旗に、なんかセクマイ記事が多い印象があるのです。さっそく直撃してみました!

 ●じつはすでに10年以上、継続的に取り上げています

ーー赤旗は共産党の新聞ですが、最近、性的マイノリティの記事をけっこう載せていませんか?

吉岡・舘野(以下断りのないかぎり、お二人の発言をまとめています) 渋谷・世田谷などの動きがあって各紙にLGBTが目につくのかもしれませんが、じつは赤旗ではすでに10年以上、性同一性障害特例法(2003年)のころから継続的に取り上げています。当事者たちのロビーイングを受けて党の国会議員団が立法に前向きで、紙面でもぜひ取り上げてほしいとの意向を受け、くらし家庭部で舘野が4回の連載を書きました。ちょうど競艇選手が性同一性障害をカミングアウトしたニュースがあり、とても印象に残っていて、タイミングよく取り組めました。
当時、党では政策に性的マイノリティ問題はまだ入れていませんでしたが、人権問題にはきちんと取り組むという姿勢があります。機関紙には政策にない課題でも取り上げ、党員らに問題提起する役割もありますね。
それ以前、90年代だと電話相談のコーナーがあって、95年から性教育に造詣の深い教師のかたに、同性愛のかたのお悩み相談への回答を書いていただいたことが、その後のLGBTの取材の基盤になっています。

ーー某新聞社の「人生案内」などは、同性愛の悩みにトンデモ回答をしたことで語り草ですが、赤旗はそのへんは安心でしょうね(笑)。

ただ、性同一性障害は国会でも取り組んだのでスムーズでしたが、そのあと同性愛の問題にはまだ編集局内でも困難というか誤解があって、せっかく書いた記事がしばらく載らなかったこともありました(10年以上もまえですが)。最近は世間の注目もあり、抵抗勢力はいません(笑)。
あと国際面やスポーツ面の編集部は国際的な人権感覚にも敏感なので、ソチ五輪のときのロシアの反ゲイ法問題や、今年は韓国のキリスト教右派によるLGBTパレード妨害など、一般紙で取り上げが少ないものも入れていますね。海外各地のプライドパレードなどもかならず入れてくれますし、海外のスポーツ選手のカミングアウトもコラムで取り上げてくれます。
そのほか、トランスジェンダーの活動家の遠藤まめたさんにコラムを連載していただいたり、女装パフォーマーのブルボンヌさんに登場していただいています。

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舘野記者(写真左):2000年入局、現在は社会部。子どものころは兄の影響なのか、“男言葉”で話し、自称も俺。スカートも穿けないような子だったそう。「なので、性的マイノリティの人には親近感や安心感がある、という感じ」。性別を変えるような気はないそうですが、性への違和感には敏感で、某調査の「LGBT7.6パーセント」に入るかも、といって笑いました。

吉岡記者(写真右):2004年入局、現在はくらし家庭部。入局以前は民青同盟(共産党の指導を受ける青年組織)で民青新聞の制作をしていたそう。そのころ性同一性障害の同盟員がカミングアウト。紙面で取り上げたこともあり、当事者との交流はありました。入局後、舘野記者の影響を受け、広く性的マイノリティ取材に取り組み中。

この2人のほか、最近、社会部担当になった男性記者など数人の記者がLGBTの問題に関心をもっているとのこと。

 ●全国の党員や支持者に、性的マイノリティを伝える

ーー赤旗で取り上げると、どのような反応がありますか。

2005年ごろ同性愛の連載をしたとき、80代の男性党員から、「自分はずっと同性に恋愛感情をもっていて、それは共産党員としてどうなのかと葛藤しながら生きてきた。でも人間を大事にし平和を追求する党を信じて支持してきた……」というお手紙をいただきました。党内にも性的マイノリティの人はいるし、苦しんでいるのに、党としてなにもしてこなかった、寄り添ってこなかった、という悔悟のような思いがあります。
また若い当事者から、「いまでも党内の仲間から『結婚しないの?』と言われたりする。悪気はないんだろうけど、もうちょっと配慮が進んで、LGBTがあたりまえになってほしい」という声も聞きます。そうした理解が進まないと、本当の自分を開示することもできず、仲間としての団結や信頼も生まれないわけですね。こうしたところに赤旗で取り組む意義や必要があるのじゃないか、と思っています。

ーー共産党の人には求道的というか真面目な人も多いだけに、悩んだ人も多かったでしょう。

人権思想の基本の一つは違いを認めあうことなのに、その違いを認めてもらえなくて党の内部でも苦しんでいた人がいたのは、本当に残念で悲しいことです。地方の保守的な地域ではオープンにしていない人が多数で、けっこう大変ですという手紙も届きます。でも、住所や名前を書いて手紙を寄せてくれるのは、赤旗を信頼してくれているから。赤旗の記事を素材に学習会を開いたという連絡もあったり、記事を出すたびにいろいろ反応が多いのは嬉しいです。こうしたなか、数年まえから党員や党後援会員のなかからもLGBTの願いを実現しようと“セクマイ後援会”が生まれ、国会議員にも積極的に声を届けています。

ーーみんなが読んでる機関紙ですから、まず党員や支持者への情報提供という面は大きいですね。私は昔、共産党が同性愛はブルジョア的退廃で、社会主義革命が成就すればそんなものは消えてなくなる、と言っていたと聞いたことがありますが(笑)、現在はどうなんですか?

1970年代までは党の青年運動のパンフレットのなかで、非健全な愛とされたこともあるようですが、社会での認識もまだそんな時代でした。いまは党も政策に載せていますし(2007年から。現在のものはこちら)、池内さおり衆議院議員も当選後、国会の初質問からLGBT施策に果敢に取り組んでいます。議員の質問は内部の検討を経て、党を代表して行なっています。質問時には他の議員も応援傍聴に行きますよ。

ーー議員はともかく、党員読者が性的マイノリティを党の綱領的立場に反するとか反道徳的存在だと思わないか、と心配したことはないですか?

舘野 赤旗の読者には人権感覚という共通の土台があって、いま偏見を持っている人でもちゃんと話せばわかってくれるという信頼感はあります。偏見のない、人権の尊重される社会を作ろうという点では共通している。読者への啓蒙と思ったことはないですが、紙面を通じて筋目の通った情報を伝えることは大事ですね。

吉岡 当事者の声を伝えることがいちばん大事だし、それが読者にもっとも入っていきますね。「こんな問題に直面しているかたがいるんだ」と。当事者の親の声を記事にしたときは、編集局内でもとても反応がありました。

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2015年だけでもパレード、LGBT成人式、シンポジウム、マイナンバー、韓国のパレードなど多彩。そしてブルボンヌさんのインタビュー(この記事は14年)まで。そのまま学習資料として使えるのも機関紙としての役目かもしれません。

 ●人材活用など経済目線ではなく、一貫して人権問題として捉える

ーー10年近く取材をしていて、ご自身のなかで変わったこと、気づいたことはなんでしょう?

吉岡 IDAHO(国際反ホモフォビア・トランスフォビアデー、5月17日)の街頭活動の取材に行っていますが、毎年各地で広がっているような気がしますね。LGBT成人式などに取り組んでいるRe:bitさんとの出会いも大きかったですね。当事者の辛さや苦しみを訴えることも大事だけど、差別をなくすと声高に主張するより、若いかれらが「違いを認め合い、尊重しあう、生きやすい社会をみんなで作ろう」とワクワクする試みを訴えているのに触れると、訴え方が変わってきている感じがします。
性的マイノリティに触れることで、私自身、障害者やほかのテーマについての考え方も変わってきた。大変な人を支えよう、というんじゃなく、その人があたりまえに生きることを尊重する社会を一緒につくる、もっと広い視点を持てるようになりました。

 舘野 最初は「性的マイノリティ」という枠を作って外から取材していたところがありますが、性とはグラデーションで、自分も部分的にそういう面もあることに気づかせてもらい、感謝したい気持ちですね。もちろん社会的には性的マイノリティという枠を設定しないと問題解決が見えないところもありますが、究極的には一人ひとりが性的マイノリティ、100人いれば100通りの性のあり方がある。だから、取材したみなさんが「一人ひとりが認められる社会にしたい」とおっしゃっていたことに共感しました。記事の見出しには性的マイノリティって立てるけど、みんな自分の問題として取り上げている感覚です。一緒に一人ひとりが生きやすい社会に変えていこう、と。

ーーお二人は一貫して人権として語り、企業でLGBT活用とか、オリンピックまでにとかLGBT市場がとか、そんな話が一切出てきませんね。そこはすごい!

党員のあるゲイの活動家が、若者や高齢に加えさらにマイノリティという面で当事者は貧困に陥る可能性が高い、セクマイと貧困の問題が重要だ、とつねに指摘していて、私たちも本当にそうだと思っています。渋谷のいわゆるパートナーシップ条例も、紙面で評価面とともに、さまざまな課題も指摘しました。LGBTも生活者だし、性の部分だけで生きているわけではない。あと自殺や薬物依存、HIV、同性カップルにかぎらないシングルの問題など、そうした面に取材を進めていくのも、赤旗の役割ではないかと思っています。

 

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