第122回 実は日本独特!?「トランスジェンダーは体の性と心の性の不一致」という“物語”

 

まきむらよ。

毎週金曜、世界のニュースから性を考える時事コラム「まきむぅの虹色NEWSサテライト」をお送りしております。

今回は、よく目にする「トランスジェンダー(体の性と心の性が一致しない)」っていう説明についてです。

最近新聞やテレビでも目にするこれ、実は、ある意味日本社会独特なんです!

本当にこの説明でいいのか、ちょっと考えてみませんか?


★トランスジェンダーは、英語圏では「●●」!?

「トランスジェンダー」。

日本語では「性別越境者」と訳されるこの言葉、よく「体の性と心の性が一致しない」という説明をされますね。

だけれどもこの説明、実は日本独特なんです。

たとえばアメリカでは、この「トランスジェンダー」という言葉を、

ある道具

にたとえる説明がスタンダードになっています。

さて、その道具とはなんだと思いますか?

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写真:PAKUTASO

実は……

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写真:Googleイメージ検索結果スクリーンショット、2015年12月4日閲覧

傘!

なんですね~。


★「トランスジェンダー」の意味、日本とアメリカで比べると?

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先のGoogleイメージ検索結果を見てもわかるように、アメリカでは、「トランスジェンダー」という言葉は「色んな意味で『性別を超える人』を指す傘のような言葉」である、とする理解が主流になりつつあります(参考:カリフォルニア大学バークレー校

つまり、「トランスジェンダーという人種のようなものがある」っていうんじゃなくって、「トランスジェンダーっていう言葉の傘の下にそれぞれいろんな人たちがいるよね~」、みたいな理解です。

「トランスジェンダー」という言葉の傘の下にいる人たち

・FtMトランスジェンダー(女性とされて生まれ、男性として生きる)
・MtFトランスジェンダー(男性とされて生まれ、女性として生きる)
・男でも女でもないあり方を生きる人
・男としての自分、女としての自分を切り替えながら生きる人
・性別にしばられたくないという人
・いわゆる「男装」「女装」をする人

などなど……
「トランス」という言葉には、もともとラテン語で「こちらからあちらへ行く」「越境する」という意味合いがあります。

性別っていう境界を乗り越えたり、性別っていう枠から出て行ったり……広い意味で「性別を越境する」人々を包み込む傘のような言葉として、「トランスジェンダー」って言葉があるのだ、というのが現代アメリカ的な理解なんです。

もちろん、私は「アメリカ最高! 日本って遅れてる~」みたいなことを言いたいのではありません。日本的な「体の性と心の性の不一致」という説明も、物語としてわかりやすいというか、共感を呼びやすいというメリットはありますね。

ただし、わかりやすさには必ず危険が伴います。最後に、日本で定番となっている「体の性と心の性が不一致」説を使う時、気を付けるべき4つの点をみてみましょう。


★「体の性と心の性が不一致」と表現する時、気を付けるべき4つの点は?

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(1)体の性と心の性が一致しているトランスジェンダーをいないことにしていないか。
「体の性」と「心の性」が一致しているトランスジェンダーだっています。

たとえば、女性を自認し、男性器を切除し、豊胸・造膣手術をへて、おっぱいも女性器もあるというトランスジェンダー女性に向かって、「でも、あなたの体は男ですよね? あなたは体の性と心の性が一致してないんですよね??」なんて言うことは押し付けがましいですよね。

あとは、「体の性と心の性が一致しないから」ということで性別越境する人ばかりじゃないことにも注意するべきでしょう。「性別なんてものから自由になりたいから」とか、「単に、そうしたいから」とか、人はいろんな理由で性別越境します。

(2)「かわいそう」扱い、否定的な目線になっていないか。
「体の性と心の性が一致しない」という表現は、そこが一致している人を中心においた表現だ、ということに自覚的になる必要があるでしょう。

たとえばこれは、異性愛者が同性愛者に言う「同性しか愛せないんだね」とか、アメリカ人が日本人に英語で言う「えっ英語話せないの? 日本語しかできないの??」みたいな、ちょっと鈍感なマジョリティ目線に立った表現です。

(もちろん、相手の目線に立って話すというのは会話のテクでもあるんですけどね)

(3)体の性、心の性、っていう概念をきちんと説明できるか。
日本語で広く「性」と言うところを、英語ではもともと単語が分かれていました。

・sex(セックス、いわゆる“生物学的性別”のこと)
・gender(ジェンダー、いわゆる“社会学的性別”のこと)

これらを訳語として日本語に輸入する際に、「セックス」っていうと性行為っぽいし、「ジェンダー」っていうと近寄りがたいしってことで、わかりやすいように考え出されたのが「体の性」「心の性」っていう訳語なんですね。

ということで、もともとは、決して「心にも性別がある」みたいな話じゃなかったんです。最近は「体と心」じゃなくて、「他認と自認(=他者から出生時に割り当てられた性が、本人の自認する性と一致しない)」で説明するやり方もありますね。

(4)「心の性を矯正しろよ」論を刺激してしまう危険性を意識しているか。
日本語が、「gender(ジェンダー)」とか「gender identity(ジェンダー・アイデンティティ)」の訳語として「心の性」という言葉を当てたことにより、「心にはあらかじめ決められた性別がある」的なイメージが生まれることになってしまいました。

こういう、なんでもかんでも性別で分けるような考え方へ疑問を呈するために、もともと人は「トランスジェンダー(性別越境者)」を名乗りはじめたはずなんですが……そこで「心にも性別がある」と言ってしまっては、本末転倒になりかねないわけです。今から数十年前の、「体の性と心の性が一致しないなら、心の性を矯正しろよ」論の時代にまで逆戻りしてしまいます。


……ということで、まとめるとこうなります。

(1)トランスジェンダーは必ずしも「体と心の性が一致しない」人たちだとは限らないんだよ
(2)正確を期すなら「性別越境者」とか「性同一性障害含む性別越境者」と言った方がよりいいんじゃないかな

おそらくこの「体の性と心の性が一致しない」という表現は、性同一性障害特例法の第2条や、日本語で「ジェンダー(・アイデンティティ)」が「心の性」と訳されたことに由来する表現でしょう。この表現はやめろ! って言いたいんじゃないんですけど、「ほんとにこれでいいの?」って学び考え続ける態度は大事にしたいですね。

それじゃ、また来週金曜日にね! 読んでくださってありがとうございました。まきむぅでした◎


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