第60号 ゲイと旅行とHIV〜今年のエイズ学会セミナーから〜

 

●今年もエイズ学会に参加してきました

12月1日は世界エイズデー。 性的マイノリティのうちでもゲイや、MTFトランスジェンダーの一部は、HIVの影響を強く受けてきた人びとです。
この日の前後、さまざまな啓発キャンペーンが開催され(こちらもご参照)、受けやすい検査も提供されています。定期的な検査で自分のステイタスを知ることが、健康上のメリットにつながります。さいわい日本は医療も福祉も世界的にみて高水準で、たとえ陽性がわかっても低費用で安心して治療しながら、社会参加を継続することができます。また、コミュニティにも古くから活動している信頼できるサポート組織がそろっています。
検査はちょっと怖いでしょうが、ぜひ、毎年定期的に受けてみませんか。

さて、この時期、私はといえば、日本エイズ学会・学術集会に参加するのが恒例です。ウイルス学などの「基礎医学」、治療や看護の「臨床」、そして陽性者サポートや当事者運動の「社会」ーー毛色の違う3領域が一堂に会するユニークな学会です。第29回の今年は東京で開催でした(来年は鹿児島でごわす)。

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今回もさまざまなHIV/エイズの現在(いま)を映し出すシンポジウムや発表が目白押しでしたし、パープル・ハンズでも口頭発表とポスター発表を出展しましたが、今回はそれらではなく、アジアーータイ、台湾、中国、日本の活動家や研究者が集まって、各国の状況と課題をシェアしたセミナーからご紹介したいと思います。

え、なんでそんなセミナーを、ですか?
だってタイよ、台湾よ!? みんな日本からガンガン行ってるじゃない! そして現地のサウナやハッテン場、あるいはウリ専でガンガンおSEXしてるでしょ! あるいは台湾や中国のゲイがガンガン日本へ来てクラブや二丁目、ハッテン場にもいるじゃない! つぎにガンガンすることは決まってるじゃない! ……ね、そういうことよ。

 ●タイ、台湾、中国、日本の状況を聞いてみよう

アジアのなかの日本〜MSMをめぐる予防啓発と国を超えた連携、ツーリズム」と題されたこのセミナー、まず最初にパネラーから各国の状況の紹介がありました。
 *MSMとはMen who have Sex with Men、男性とセックスする男性。下記ではゲイ・バイ男性と表記しました。

 タイから
プーンカセトワッタナさん(現地NGOのAPCOMから)

タイではゲイ・バイ男性間でのコンドーム使用は、地方都市ではまだ低いものの、都市部では高い使用率を示しています(バンコク68%、チェンマイ66%)。ただしその背景には、ゲイ・バイ男性のHIV陽性率がバンコクで約24%、チェンマイで23%、また売り専など男性セックスワーカーのHIV陽性率がバンコクで16.4%、チェンマイで11.9%、プーケットでは25.5%という報告があります(タイ全体でのゲイ・バイ男性の陽性率は7.1%、タイの成人全体でのHIV陽性率は1.1%。異常に高いことがわかります)。
現在、地元のNGOが検査キャンペーンに取り組むほか、薬の事前服用(プレップ、PrEP)への啓発がバンコク地域で今年の9月から行政とともに取り組まれています。とはいえ、プレップをしたらコンドームを使わないというアンケート回答もあるので、引き続きコンドーム使用への啓発が必要です。

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タイ主要都市でのゲイ・バイ男性(MSM)や男性セックスワーカー(MSW)の陽性率報告。

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タイでのゲイ・バイ男性向け啓発活動(検査の推進など)の紹介。

*プレップ:一部の抗HIV薬には、事前服用しておくと感染を防ぐ効果があることがわかり注目されています。ただ、HIVの感染は防いでも他の性感染症には効果はなく、コンドームの着用が大事です。また、どの程度の頻度で飲めばよいのか、女性のピルなどの普及が低い現状も参考にするとそもそも予防投薬が受容されるのか、議論が続いています。参照サイト

 台湾から
陳宜民さん(高雄医科大学)

台湾のHIV感染報告は、2005年には3300、06年に2900を数えましたが、これはその時期、薬物使用による大感染があったためです。薬物使用による感染へは、啓発や匿名検査のほか、注射器・針の交換プログラム、代替麻薬(メサドン)の提供などが行なわれ、現在なんとか収束を見ていますが、依然、ゲイ・バイ男性間での性行為による感染は増え続けていますし、台北や高雄での人口あたり感染率はとても高いものがあります。
2011年に台北のクラブ、バー、サウナなどゲイ向け施設で調査が行なわれ、サウナでの新規感染率がいちばん高い結果が出ました。アナルセックスで油性の潤滑剤(ベビーオイルなど)を使用し、それによってコンドームが破れて感染が広がっていたことが注目されました。
現在、国の教育省が中心となって中高で若者向けの性教育が推進され、非協力的な校長は左遷されるほどです。大学にはコンドームの自販機が、学生会などと設置場所を協議して設置されています。エイズ管理法という法律で、すべてのサウナ、ホテルなどでコンドームと水性潤滑剤の設置が義務づけられています。
さらに台湾CDC(国の疾病管制センター)が資金を出してゲイ向け啓発拠点(同志健康センター)が台北、新北、新竹、台中、高雄に設置され、さまざまなNGOに運営が委託されています。そこでは相談、検査、セミナー、検診のほか、映画祭などソーシャル活動も展開されています。またそれ以外にも、たとえば台北にはボランティアによるレインボークィア健康・文化センターが開設され、検査等へのエスコートなどエイズ活動のほか、プライドパレードに参加したり総統選挙候補へロビーイングも行なっています。

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台湾での報告数。赤線は薬物使用によるもの(2005、6年が特徴的)、その後、青線の男性同性間の性感染が伸び続けています。

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台湾のNGOたちの活動の様子。

 中国から
呂繁さん(中国CDC)

従来、農村地区での売血による感染が多かった中国でも、現在、78万人の陽性者のうち、男性同性間によるものが17.4%(約13万6千)、また薬物使用によるものが28.4%(約22万)となっています。伸びの激しいのは男性同性間です。
エリア的には、北京、上海、重慶、広州、深圳、香港など大都市部、ほかに江蘇省、広東省、四川省、遼寧省、山西省、また薬物使用による雲南省などが高い数値を示しています。

 日本から
岩橋恒太さん(NPO法人akta代表)

日本では年間1500人の新規感染・発症報告があり、そのほとんどが男性同性間。とくに2000年代以後の伸びに著しいものがあります。2003年から厚労省がaktaのほか全国の大都市に6か所のコミュニティセンターを設置していますが、大都市圏につづいて地方都市のゲイ・バイ男性間でも感染が広がりはじめており、全国的な啓発が必要です。年代的には1980年代生まれ世代の伸びが激しく、若いゲイに感染が広がっています。また、3、40代の発症が注目されています。
日本では自分が陽性かどうかを知らないゲイ・バイ男性がまだまだ多い現状があり、今年、aktaで郵送検査キットの無料配布が(さまざまな体制を整えたうえで)始まりました。その効果が今後、注目されています。
現在、統計によれば日本を訪れる外国人は1350万人で、80%がアジアから。そのなかには旅行に意欲的なゲイ・バイ男性の割合が高いことも予測され、二丁目でも英語や中国語の聞かれない日はありません。今後、国を超えてHIV問題にもっと取り組む必要があると思います。

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奥から岩橋(日本)、呂(中国)、陳(台湾)、プーンカセトワッタナ(タイ)、コメンテーターのクーパー(オーストラリア)の各氏。

 ●旅するHIV、アジアのゲイの実情を知ろう

どうだったでしょう。もともとわかりづらい同時通訳によるメモ(岩橋さんは日本語でしたが)で、とても細かいニュアンスまではお伝えできませんが、各国の状況の片鱗はうかがえたのではないでしょうか。
とくに台湾の人口は約2300万人と日本の5分の1強にもかかわらず、ゲイ・バイ男性間での感染が1500を超え、これは2014年の日本の感染・発症報告数のうち男性同性間と答えた1047件をはるかに上回り、日本の全報告数1546件に並びます。
このセミナーの企画者で、当日は司会をつとめたNPO法人ぷれいす東京の生島嗣さんは、「日本の台湾好きにもそのことがあまり知られていないのは、台湾社会でゲイの顕在化が進みはじめている一方、HIVへの強いタブー意識があり、隠されているから」と、あとで私に語ってくれました。

聞けばパネラー同士、すでに控え室でかなり話が盛り上がってしまったとのこと(苦笑)。そのテーマは予防投薬(プレップ)。バンコクではNGOと行政でプレップへの取り組みが始まり、陽性者の多い台湾でも関心を示している一方(旅行好き台湾ゲイはタイへ行って予防薬を安く入手し、また台湾でナマでやるんじゃないか、なども心配されているとか……)、日本では(それら2国に比べて)陽性者数が少ないことやコンドームの着用を優先する点からも、予防服薬には慎重です。製薬メーカーが新市場とばかりに熱心なのも気になるところ……。

しかし、冒頭に述べたようにタイ、台湾とも日本のゲイたちに人気のある旅行先ですし、一方、二丁目の外国人もこれからオリンピックを控え、増えることはあっても減ることはないでしょう。それは同時に、病の移動も避けられないことを意味します。
これから年末年始の旅行シーズンを控え、さまざまなLGBTポータルサイトが楽しそうな旅行記事をアップする時期ですが、各国のゲイとHIVの関係についても思いを馳せてみませんか。あわせて旅の開放的な気分のなかでも、ゲイのたしなみ「セーファーセックス」をお忘れなく、です。

 

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