第61号 司法書士に成年後見の実際を聞いてみた〜ひとり暮らし認知症を支える〜

 

●「外付け家族」の後見制度で、セクマイの老後を支える

私たちセクマイの老後って?
子どもをもつことが少ない性的マイノリティの場合、高齢おひとりさまの姿を思い描く人は少なくないでしょう(いつも言うとおり、パートナーがいても死別すればおひとりさまです)。一人暮らしの認知症や孤独死にリアリティを感じる人も多いのでは。
もちろん超高齢社会、これらはセクシュアリティに関係なく、みんなの問題だし、子がいれば頼りになるかは、いま自分が親を支えているかを振り返ってみれば、答えは??
ただ私たちは、セクシュアリティがネックとなって人に相談やヘルプを求められない、孤立を深めやすい種族だとは言えるかもしれません。

性的マイノリティの老後を考えるNPO法人「パープル・ハンズ」では、一人暮らし高齢者を支える成年後見制度に関心を寄せ、情報収集に努めています。先日のLP研(ライフプランニング研究会)の例会では、司法書士として一般のかた(みんな一人暮らし認知症者)の成年後見にあたっているメンバーに、その実際などを聞いてみました。

メンバーのNさん(37歳)は、司法書士登録5年目。司法書士というと、不動産や会社の登記業務がメインで、あと多重債務などの債務整理でもおなじみですが、専門家として後見人の受任にもあたっています。

成年後見人とは、認知症や事故などで判断能力が低下・失われた人にキーパーソンをつけて、本人の「頭の代行」をする人。財産管理の代理や、病院や介護施設との契約を代理して本人のためにマネジメントする身上監護にあたる、法律にもとづく制度です。通常、ご家族(4親等以内親族)が裁判所に申し立て、後見人には親族がつくことが多いのですが、身寄りのない人の場合、市長や区長などが申し立て、裁判所が専門家の団体などへ依頼し、専門家が受任することも(司法書士会のリーガルサポートなどが有名。私は行政書士でもありますが、東京都行政書士会でもヒルフェという団体を作っています)。
私たち身寄りのない立場では、後見人は「外付け家族」と言えるかもしれません。
Nさんが受任しているのは基本、一人暮らしで親族がない、高齢で認知症のかたがたのケースです。そうしたかたがたのお話を中心にうかがいました。

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当日は雨模様のなか、LP研ははじめてのかた5名を含め25名近くが参加。今年は“同性婚”にわいた一年でしたが、当事者たちは「ひとりの老後」への関心も高いなあ、とあらためて思わされたLP研でした。

 ●高齢ひとり暮らし認知症の日々を後見人として支える

では、さっそくNさんの話をシェアしましょう。まず最初は、今年の冬から受任しているAさん、90代女性の例です。

Aさんは事実婚だった男性と死別したあと、すでに20年ほど一人暮らし。近年、銀行や郵便局で「私の通帳返してくれ〜」など言って居座る騒ぎを何度も起こし、要注意人物になっていたところ、ついに銀行が警察に相談、警察が地域包括支援センター(各自治体に設置。リンクは新宿区の説明)に連絡して、サポート体制の模索が始まりました。銀行も「認知症」などに理解があれば、もう少し早くサポートへつながったかもしれません。

さて、Aさんは若いころから事業を営み、認知症が進んでもお金に執着があります。後見がつくと基本的に後見人が通帳を預かりますが、それが納得できず、「なんで私にだけ国から管理人がつくの?」と怒る始末。「通帳を返してくれ」と、ひどいときは1日20回ぐらいNさんに電話してきたり。30秒まえのことも忘れてしまうので、さっき電話したことも覚えてないのです。夜中や早朝にかけてきたときは、さすがに留守番電話にしてしまいました……。

90代の認知症の一人暮らしの様子ですが、Aさんは洗濯や掃除はでき、ゴミを収集日に関係なく毎日出しますが(苦笑)、部屋はきれいでゴミ屋敷ではありません。でも、持ち物管理や食事の世話ができない。食事は好きな回転寿司に行くか、近所のスーパーでたくさん買ってしまい、そのままテーブルに置いて腐らせたり。ゴミ捨てまえの食品ゴミを漁っていたことが、あとでわかったことも。
暖房はエアコンが壊れたままで、暖風が出てると言い張って修理をさせてくれない。本人は寒暖がわからないようですが、本当に寒いと台所のガスコンロで暖を取ろうとします。危なくて、Nさんたち関係者も一刻も早く施設に入ってほしいというのが願いでしたが、施設に入れたら自殺すると騒いで抵抗。ただ往診の医師のことは信頼し、彼が探してついに入所させたのが8月ごろ。それでも当初はドアのところで待っていて誰かの出入りに乗じて脱走を試みる元気がありましたが、いまは自分がどこにいるかもわからなくなった感じです。

半年のあいだに様子もだいぶ悪くなり、もともとのパーソナリティはとてもしっかりした人で、自分にも厳しく規律をもっていた人だと思われるのに、認知症で人柄も顔つきも変わってきたとNさんは言います。「お話していると、昔のチャーミングだった様子がふっと感じられたりするんですけど」……。

Aさんは有料老人ホームへ入っているので、日常は職員さんがサポートしてくれますが、在宅の認知症はどんな感じなのでしょう。
2014年から受任するDさん(80代女性)は、そんなかたです。

Dさんは東京の都心部で一人暮らし。地元の社会福祉協議会が後見レベル未満の人の重要書類を預かってサポートしたりする地域権利擁護事業を利用していましたが、お酒が大好き。近所を通る豆腐の行商のお兄さんが懇意になり、いつも大五郎の大瓶を買ってきてもらっては何度も飲み過ぎ、自分で救急車を呼ぶことも再三。ついにまわりの民生委員や社協が心配して、首長申し立てで後見を申し立て、Nさんが後見人を受任しました。

いまも一人暮らしを続けていますが、後見人のNさんの役目は、月に一度は訪問して数万円の生活費を渡し、ためておいてくれる領収書(コンビニか弁当屋さん)を確認し、なぜか買っている健康食品や果物の訪問販売(押し売りされたらしい)を注意したり、あるいはまたお酒を買ってないかチェック。
日常の食事は、介護のデイサービスに行った先で給食を食べたり、夜は配食弁当を利用し、自分のことはヘルパーさんをまじえてなんとかできている模様です。Dさんの性格は、人の好きキライが激しく、行政の担当者やヘルパーさんを家に入れてくれないときもあったそうですが、いまのヘルパーさんはスッと受け入れました。
お金の補充では、夏など飲み物をよく買うときは定期的に電話して残金を聞いたりしています。お金は、人によっては管理能力がなくなってすぐ使ってしまう人もいますが、Dさんとは信頼関係を作って適切に使ってもらっているそうです。

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 ●ヘルプを求める力と、法的書面にかんする知識

いかがだったでしょうか。当日は4人の例をうかがいました。すでに亡くなったBさんの例では、不仲の親族に遺産を渡したくないので遺言を書きたいと言っていた矢先に亡くなり、結局、意思がかなわなかったこと。Cさんは入院中に、後見制度に理解のある病院のはからいでスムーズに後見がついたことなど、それぞれに興味深い点がありました。

後半、会場からはさまざまな質問が出て、フロアにいた私の行政書士の先輩(ケアマネ兼務で高齢者に詳しい)もまじえて応答がありました。

一つは、本人が亡くなったあと後見人はなにができるのか。
後見人はあくまで生きているあいだの役目で、亡くなったあとは相続人に引き継ぎます(そのさい、病院の支払いなど残務を行なうこともあります)。でも、だれも相続人がいない場合は、家裁に請求して相続財産管理人を選任してもらい、決められた手続きののち、本当に相続人がだれもいなければ遺産は国庫に収納されます。

後見人はどういう判断基準で後見活動をしているの? という質問には、会話ができるならご本人の意思を聞き、それを尊重する。でも、財産も「守る」のが第一なので、いくら本人が買いたいと希望しても、浪費にあたる場合があれば本人の要望に応じないこともある、など。

看護師の参加者からは、患者さんに弁護士の後見がついていたが、反応が遅く、車椅子の修理の支出もなかなか認めてもらえず患者さんがかわいそうだったとの声には、弁護士会へ苦情申し立てしたり、家裁にチクる、などの「アイデア」も聞かれました。

アンケートでは、今回のお話の「法定後見」とはべつに、自分で老後のためにあらかじめ後見人を決めて契約しておく「任意後見」についての関心も見られました。実際、パープル・ハンズもこれから、当事者による当事者のための「見守り法人」「後見法人」などをめざして信頼が得られるよう、体制を整備していく予定です。

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見守り法人としてあらかじめ契約し、定期的な見守り訪問や相談、入院の保証人、そして死後の片づけなどを受任します。

最後にNさんに専門家として、私たちセクマイの老後のために必要なことをコメントしてもらうと……

ひとつは「受援力」。ヘルパーを家に入れる、後見人をつけてもらう……など、高齢期は自分から進んで誰かのちからを借りる力をつけること。
もう一つは、遺言やパートナーシップ契約書(あるいは任意後見契約)など、法律的書面をきちんと準備していくこと。

だそう。こうした情報は、LP研の場や私の事務所の講座、もちろんこの連載でも情報提供に努めていますので、ぜひ知識をシェアしていただければと思います。

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