第62号 LGBTブーム、2015年の光と影を振り返る〜〈流行〉から〈生活権〉へ〜

 

なにかと「LGBT」がらみの話題が多かった2015年も、そろそろ暮れようとしています。今年はやはり後年になって、「あのころ」として振り返られる年月になるのかもしれませんーー1990年代前期を「ゲイブームが起こったあのころ」と振り返るように。
私なりの視点で今年注目したい動きをあげてみました。

 ●わたしの注目

 ①行政による同性パートナーシップ公認
年明け2月、渋谷区で同性パートナーシップへの証明書発行を盛り込んだ条例案が突然発表、大きなニュースとなりました。当事者内外からも、激しい賛否両論が沸き起こることに。
私自身は法律家(行政書士)のはしくれとして、「自治体レベルの記念品的な証明書に法的効果はない。ただ、発行の要件に公正証書の作成があり、自分たちで法的効果のある書面を作成することは大切だ」ぐらいに受け止めていました。
しかし、メディアや社会の反応は凄まじく、ネット上ではいつのまにか「渋谷区で同性婚解禁!」に(苦笑)。それから秋の1号カップル発行まで(いや現在も)、メディアに「渋谷区では〜〜」の枕詞が踊らない日はないぐらい(広告効果はナン億円?)。
時期をおなじくして進められた、世田谷区の宣誓方式による同性カップル公認も、当事者発の発想や宣誓という比較的簡便な方法で、当事者の自尊感情の回復と社会への啓発効果などが得られ、地方自治体ならではの施策と言えます。
今後、他自治体へどう広がるか、注目されています。

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証明書発行を夕刊トップで伝える朝日新聞(2015.11.5)。

 ②企業の変化
こうした同性パートナーシップ公認の動きは、携帯電話会社や一部の生命保険会社などの企業サービス対象の拡大、そして社内の就業規則や福利厚生制度の変化を促すなど、社会的な影響を起こしています。
性的マイノリティの就労改善への働きかけは2010年代以後、当事者NPOなどの努力が重ねられていましたが、一般メディアでの報道が増えるなか、企業対応の高まりが見られました。

 ③法制議論の提起
さらに、法律家や研究者のあいだにも、同性パートナーシップと憲法24条との兼ね合いをはじめ、議論を喚起し始めています。現行憲法では同性婚は認められない、まずは改憲から、という「違憲論」。憲法は同性婚を禁止していない(1946年当時、同性婚はそもそも想定されていない)、という「合憲論」……。この連載でも憲法学者の木村草太さんの議論をご紹介しました。
7月には当事者/アライの弁護士など法律家でつくるLGBT支援法律家ネットワーク(有志)が、日弁連へ同性婚人権救済申し立てを行ないました。国会でも党派を超えた「LGBT議連」の結成、保守政党からも影響力ある議員の発言が出るなど、今後の行方が注目されます。

 ④文科省通知、教育での動き
今年は教育や子ども・若者をめぐる重要な動きもありました。
これまで文科省は性的マイノリティについて、「性同一性障害」というすでに法律にあるカテゴリーの児童生徒への配慮を求める通知や調査は行なってきましたが、それ以外のカテゴリーの児童生徒については、一貫して口をつぐんできました。
しかし、4月に「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」という通知を出し、「『性的マイノリティ』とされる児童生徒」という用語で、同性愛などの児童生徒の存在にもはじめて触れたのです。
この文科省通知が今後、学校現場でどう支援に生かされていくか、こちらも注目です。

 ⑤書籍の発行つづく
そんなこんなもあって、今年は性的マイノリティ/LGBT関係の書籍の刊行もあいつぎ、私も久しぶりに本を出す機会に恵まれました(2CHOPOでもご紹介)。各地のプライドパレードなどのときには、近隣の書店でブックフェアが開催されることも。
どの本も、それぞれの著者の熱い思いがこもっています。ぜひお買い求めのうえ、新しい知識を役立ててください。

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大阪・清風堂書店のフェアの様子。

 ●わたしの懸念

さまざまな動きがあり、変化の胎動が感じられた今年ですが、一方、光の背後に課題も散見される日々でした。

 ①行政施策は定着するのか
渋谷区とその条例は、社会の固定観念を揺るがし、さまざまな反応を引き出した点で、今年の殊勲賞は間違いありません。全国各地で、「わが市にもパートナーシップ制度を」と申し入れる当事者の動きも生んでいます。
しかし、その後の渋谷区については、グッドデザイン賞問題や区役所「レインボートイレ」問題など、わたし的には「???」と思わない事態もないわけではありません。渋谷区の秘密主義については、区の委員を務める弁護士も苦言を呈しています。
私の居住する中野区では今秋、区内当事者団体とのシンポジウムを開催し大きな反響がありましたが、今後いずれの自治体でも、性的マイノリティ施策がたんなる知名度アップのための宣伝の具ではない、真に住民生活の改善に資する、地に足のついたものとなることを願っています。

 ②置き去りにされる問題群
同性パートナーシップ公認は社会の注目を集めただけに、一方で、多様な性的マイノリティの存在が、視覚的にもわかりやすい「同性カップル」というかたちのみで表象され、シングルの問題や「愛」にかかわらないAセクシュアルなどが見過ごされているような気がします。
LGBT活用でおしゃれなまちづくり、オリンピックまでにダイバシティー対応、はたまたLGBT市場うん兆円が喧伝され、LGBTを語ることが意識高い系のアクセサリーになるような風潮の裏側で、社会的疎外に起因するメンタル不調、薬物などの依存症、HIV感染、非正規や離職を契機とした貧困、孤立のなかでの自死、閉じた関係でこじらせる親族やパートナー間暴力、さらに地方と都市部の格差などが見えなくされています。これらの問題は、エイジズム(高齢者排除)を帯びた老病死にかかわる場面でいっそう深刻さを増してゆきます。
多様な性的マイノリティ間で、いまや「私たちは仲間」という共同性が成り立つかさえわかりませんが、「勝ちにゆくLGBT」たちに注がれるスポットライトからはずれたところにいる仲間と課題にも、目を向け続けたいと思っています。

 ③“癒しの言葉”から、生活づくりの取り組みへ
行政による同性パートナーシップ公認のインパクトは、逆に日本人の「お上意識」の強さを裏書きもしています。認めてもらうことはスタートであってゴールではないはず。また、認められたい心性とネット文学の特性が呼応するのか、 “きみは一人じゃないよ”式の「虹色ポエム」が流行していると感じます(昔と比較して←年寄りの実感)。
傷ついた人を癒す言葉とともに、いまこそ安心できる暮らしのために、当事者が具体的な取り組みを始めなければ、とロートル世代としては痛感しています。
そこでいつも思うのは、障がい者たちの「自立生活運動」です。
1980年代、障がい者への行政や社会の理解は進み、福祉政策は一定の拡充を見ます(81年は国際障害者年)。しかし、当の障がい者自身は、施設で手厚く保護されるような「福祉」を拒み、私のことは私が決める「当事者主権」を合い言葉に、自分が住む地域に自立生活センターを設立。アパートを借り、始まった支援費制度を活用して障がい者自身が介助者を雇い、多少ガタビシしながらも、むしろそれを楽しみ、「ほしいものは自分たちで作る」をモットーに町で暮らしはじめます。
自立生活センターは、当事者へ生活スキル講座を行ない、心理面のサポートをし(ピアカウンセリング)、有料介助者を手配するサービス事業体であると同時に、当事者の声を社会へ発信していく運動体でもあります。
性的マイノリティ/LGBTといえば、つい海外に「先進事例」「モデルケース」を求めてしまいがちですが、私は仲間と運営するパープル・ハンズのモデルを、このすぐそばにいる先行者たち、障がい者の自立生活運動に見ています。

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行数が尽きました。果たして来年もこのLGBTブームは続くのでしょうか。ブームが終わっても、私たちが性的マイノリティ自身であることには変わりないのですが……。

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